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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(あ)1861号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人伴昭彦の上告趣意のうち、所論各供述調書が任意性のないことを理由に証拠能力を欠くとして憲法三一条、三八条二項違反をいう点は、記録によれば右各供述調書に任意性を認め証拠能力があるとした原審の判断は相当であるから、所論は前提を欠き、その余の違憲(憲法三一条、三七条二項、三八条違反)をいう点は、実質はすべて単なる法令違反の主張であり、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、所論にかんがみ、職権により判断すると、刑訴法三二五条の規定は、裁判所が、同法三二一条ないし三二四条の規定により証拠能力の認められる書面又は供述についても、さらにその書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述の任意性を適当と認める方法によつて調査することにより(最高裁昭和二六年(あ)第一六五七号同二八年二月一二日第一小法廷判決・刑集七巻二号二〇四頁、同二六年(あ)第一二九五号同二八年一〇月九日第二小法廷判決・刑集七巻一〇号一九〇四頁参照)、任意性の程度が低いため証明力が乏しいか若しくは任意性がないため証拠能力あるいは証明力を欠く書面又は供述を証拠として取り調べて不当な心証を形成することをできる限り防止しようとする趣旨のものと解される。したがつて、刑訴法三二五条にいう任意性の調査は、任意性が証拠能力にも関係することがあるところから、通常当該書面又は供述の証拠調べに先立つて同法三二一条ないし三二四条による証拠能力の要件を調査するに際しあわせて行われることが多いと考えられるが、必ずしも右の場合のようにその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく、裁判所が右書面又は供述の証拠調後にその証明力を評価するにあたつてその調査をしたとしても差し支えないものと解すべきであり、これと同趣旨に帰する原審の判断は相当である。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(江里口清雄 高辻正己 環昌一 横井大三)

原審弁護人伴昭彦の上告趣意〈省略〉

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